ボーイング(ティッカー:$BA)の2025年度第4四半期決算についてまとめます
- 決算概要
- 業績ハイライト
- 質疑応答ハイライト
- 1) FCFの“正常化”ブリッジ(Myles Walton)
- 2) 「FCF B」の妥当性と上振れ余地(John Godyn)
- 3) 737(47→52)/787(10→12/14)レートのボトルネックとSpirit対策(Doug Harned)
- 4) BCAマージンとSpiritの長期影響(Sheila Kahyaoglu)
- 5) 2026年の737/787納入ガイダンス(Peter Arment)
- 6) KC-46の“曲がり角”と国防増産需要(Seth Seifman)
- 7) そもそも「機体OEMは儲からない」問題(Ron Epstein)
- 8) 地政学(関税・欧州の地産地消調達)リスク(Robert Stallard)
- 9) “正常化までの差分”はBより上か下か(Noah Poponak)
- 10) CFOのBDSレビューは“EAC深掘り”なのか(Gavin Parsons)
- 総括
決算概要
アナリスト予想平均と結果の比較をまとめます。
| 結果 | 予想 | 判定 | |
|---|---|---|---|
| EPS | $9.92 | -$0.39 | 〇 |
| 売上高 | $23.95B (YoY +57.2%) | $22.84B | 〇 |
業績ハイライト
1) 2025年4Q(第4四半期)・通期の全社業績
| 指標 | 2025年4Q | 前年比/前年差 | 2025年通期 | 前年比/前年差 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | $23.9B | +57% | $89.5B | +34% |
| コアEPS | $9.92 | ー | $1.19 | ー |
| フリーキャッシュフロー(FCF) | +$0.375B | ー | ▲$1.9B(使用) | 改善(前年差は未開示) |
| 現金・市場性証券 | $29.4B | ー | $29.4B | ー |
| 有利子負債 | $54.1B | ー | $54.1B | ー |
| リボルビング枠 | $10B | 未使用 | $10B | 未使用 |
- ✅ 売上は2018年以来の四半期最高($23.9B)。
- ✅ FCFは4Qでプラス(+$375M)。商用機納入増と運転資本の改善が寄与。
- ⚠️ コアEPSは「Jeppesen(Digital Aviation Solutions)売却益」に大きく依存
- 4QコアEPS $9.92のうち、$11.83がデジタル航空ソリューション売却益(クローズ)由来
- 通期コアEPS $1.19のうち、$12.47が同売却益由来
- (会社説明)売却益を除くと、通期EPSは前年差+ $9.10改善
2) セグメント別(4Q)
| セグメント | 売上高 | 前年比 | 営業利益率(マージン) | 主因 |
|---|---|---|---|---|
| BCA(民間機) | $11.4B | ー | ▲5.6% | 納入増などで改善。Spirit買収影響で約▲1.5pt |
| BDS(防衛・宇宙) | $7.4B | +37% | ▲6.8% | 量産・運営改善。ただしKC-46で▲$565M損失 |
| BGS(サービス) | $5.2B | +2% | (異常に高い) | デジタル航空売却益の影響 |
| BGS(調整後) | $5.1B | +6% | 18.6% | 商用/政府ともにダブルディジットマージン |
- ✅ BGSは(売却益調整後でも)成長+高マージンが継続。
- ⚠️ BCA/BDSは依然マージンがマイナス。とくにBDSはKC-46の追加損失が重い。
3) 受注・バックログ(BCA / BDS / BGS)
BCA(民間機)
- 4Q納入:160機/通期:600機(2018年以来最多)
- 4Q純受注:336機
- Alaska Airlines:737-10 ×105、787-9 ×5
- Emirates:777-9 ×65
- 通期純受注:1,173機
- 期末バックログ:$567B(過去最高)、6,100機超
- 737・787ともに「次の10年まで確定受注で埋まっている」と説明
BDS(防衛)
- 4Q受注:$15B
- 米空軍:KC-46A ×15
- ポーランド:Apache ×96
- 期末バックログ:$85B(過去最高)
BGS(サービス)
- 4Q受注:$10B、通期受注:$28B(年最高)
- 期末バックログ:$30B(過去最高)
4) プログラム別の進捗(BCA)
737
| 項目 | 実績/状況 |
|---|---|
| 4Q納入 / 通期納入 | 117機 / 447機 |
| 生産レート | 月産42機で安定化、年内に47へ |
| “Shadow factory”(2023年以前ビルド)在庫 | 期末1機(前四半期から▲5)→ 1Qに最後を納入予定 |
| -7 / -10 在庫 | 約35機で横ばい |
| 認証 | 737-10:TIA2取得(最終段階の飛行試験へ)/-7・-10:エンジン防氷(anti-ice)設計変更の最終セット、両機とも2026年の認証見込み |
| 品質/納期 | 納入の定時性が前年比で3倍改善、顧客から品質フィードバック改善 |
787
| 項目 | 実績/状況 |
|---|---|
| 4Q納入 / 通期納入 | 27機 /(発言上)88機 ※原稿に「88%」とあるが文脈上88機 |
| 生産レート | 月産8で安定化、年後半に10を目標 |
| 工場指標 | 平均リワーク工数を約30%削減(2025年) |
| 2023年以前ビルド在庫 | 約5機(前四半期から▲5)→ 残りは2026年に納入予定 |
| 課題 | 座席(seat)関連が「納入」の制約(新シート構成は認証ベースラインが厳しく、OEM/FAA手続きが長期化しがち) |
| 受注 | 通期純受注395機(過去最高の年次受注) |
777X(777-9中心)
| 項目 | 実績/状況 |
|---|---|
| 認証 | 777-9:TIA3承認、認証飛行試験継続(アビオ/環境制御/APUなど) |
| 技術課題 | 777Xエンジンで耐久性の潜在問題を検査で確認→ GEと原因/是正策を詰め中 |
| 納入計画 | 2027年初号機納入は維持(影響なし見込み) |
| 在庫支出 | 2025年末で約$3.5B(想定内) |
| 受注 | 通期202機(ローンチ以来2番目の多さ) |
| キャッシュ | PDP(前受金)が旧スケジュール(2026納入想定)ベースで低く、2026はネットキャッシュバーン増、2029にプラス転換見込み |
5) 防衛(BDS)と主要プログラム
- ✅ F-47(米空軍 第6世代戦闘機):会社は「トランスフォーメーショナルな勝利」と表現
- ✅ 主要マイルストーン
- MQ-25:初のエンジンラン成功(初飛行に向け前進)
- T-7A:初の運用機を米空軍へ納入(Joint Base San Antonio Randolph)
- ⚠️ KC-46A:4Qで▲$565Mの損失
- 要因:Everett施設の生産支援・配賦コスト増、サプライチェーンコスト増(Spirit含む)
- ただし(改善例)4Qの工場リワーク水準は上期比▲20%
- 納入計画:2025年14機 → 2026年19機を目標(支援リソースを高止まりさせる方針)
- ✅ PAC-3 seeker:2025年に生産量+33%(能力増強投資+リーン)
6) ポートフォリオ/資本政策
- ✅ Spirit AeroSystems買収を完了(統合開始)
- ✅ Jeppesen売却(Digital Aviation Solutions divestiture)を$10.6Bで完了
- 現金増の主因。
- ⚠️ 負債は**$54.1B**(Spiritの負債取り込みで前四半期比やや増)
- ✅ 投資適格の維持を重視、リボルビング$10Bは未使用
7) 2026年見通し
フリーキャッシュフロー(FCF)
- 会社見通し:2026年通期 FCF:+$1B〜+$3B
- 前提:Spirit取り込みで約▲$1Bの逆風(2026年)
- 季節性:1Qは2025年1Q並みのキャッシュ使用、上期は使用、下期でプラス化し加速
- CapEx:2025年 約$3B → 2026年 約$4B(Spirit含む、St. Louis/Charleston等への投資継続)
2026年の一時的な逆風(経営陣が列挙)
- ⚠️ 777Xの認証遅延と初号機納入(2027)に伴うネットキャッシュバーン増(PDPが低い)
- ⚠️ 737/787の過去納入遅延に起因する「顧客補償(considerations)」と「超過前受(excess advances)」
- 対応:生産安定化・定時納入の改善、余剰部品在庫の計画的圧縮、既存在庫機の最終納入
- ⚠️ BDSの過去損失計上案件(固定価格開発5案件)の“駆け抜け”コスト影響(追加損失がない前提)
- ⚠️ DOJ支払いが2025→2026にスライド(一過性)
- (会社主張)これらを調整すると、2026年は「high single digits」のFCF潜在力がある、と説明
- さらに長期では**$10B FCFは“very attainable”**(達成可能性が高い)とCFOが明言
2026年のBCA納入目線(Q&Aで明示)
- 737:概ね500機
- 2025は在庫納入が約55機あったが、2026は繰越在庫がほぼなく「生産ロールアウトが大幅増」
- 737-10を約30機ビルドするが、2026は未納入(2027に認証後納入)
- 787:概ね90〜100機
- BCA全体:**納入+約10%**を見込む
質疑応答ハイライト
1) FCFの“正常化”ブリッジ(Myles Walton)
Q(要旨):超過前受(excess advances)と顧客補償(customer considerations)の規模感と正常化のタイムラインは?(2027/2028以降?)
A(要旨:CFO Malave)
- 会社としては、正常化へ向けた差分は**「low single digit 〜 high single digits」**のレンジ感。内訳の定量開示はしない。
- 2026年は「excess advances」と「considerations」の影響は概ね同程度。
- excess advancesの方が先に減り、considerationsはより長く残る(737/787)。
- 777Xのネットキャッシュバーンは数年かけて改善し、2029年にプラス転換。
- 重要なのは「生産レートの改善と定時納入」に依存し、前提が変われば影響も変わる。
評価(読み取り)
- ⚠️ 会社は“どれくらいで消えるか”を明確に区切っていない。considerationsが長期化する示唆が強い。
2) 「FCF B」の妥当性と上振れ余地(John Godyn)
Q(要旨):$10B FCFは前からの数字だが、今見ても妥当? むしろそれ以上になり得るのでは?
A(要旨:CFO Malave)
- まずは$10Bに到達するのが最優先。
- $10Bは**「非常に達成可能(very attainable)」**で、繰り返し同じ前提(認証、BCAレート上げ、BDSの安定、BGSの継続)を満たせば到達できる。
- $10B超の潜在力はあり得るが、「まず10」。
評価
- ✅ マネジメントは$10B達成に強い自信を示す。
- ⚠️ ただし前提条件(認証・供給網・BDS損失再発なし)が重い。
3) 737(47→52)/787(10→12/14)レートのボトルネックとSpirit対策(Doug Harned)
Q(要旨):レート引き上げでどこが最難関? 2018年の52機でSpiritが問題を起こしたが再発防止は?
A(要旨:CEO Ortberg)
- 737:38→42は順調、11–12月(休暇月)でもKPI良好。
- 42→47は当面サプライチェーン問題は大きくない(在庫が厚い)。
- 47→52が難所:在庫正常化が進むため、供給網の性能が問われる。
- Spirit:能力増強投資が必要。買収は「自社でレート上げをガイドできる」ことが狙い。
- Spiritがディストレスのままならリスクが高かった、という認識。
- 787:月産8の安定化→10へ。供給制約は大きくないが、座席問題は納入制約として残る。
- 設備投資:737はEverettの新ライン、787はCharlestonの増強に投資済み/進行中。
評価
- ✅ 42→47は見通し良好。
- ⚠️ 47→52を“供給網のハーモニー”に依存と明言。Spiritを内部化したから解決、とは言っていない。
4) BCAマージンとSpiritの長期影響(Sheila Kahyaoglu)
Q(要旨):737/787のキャッシュマージンはどの程度/どれくらい改善? Spirit逆風や価格改定の寄与は?
A(要旨:CFO Malave)
- 現状、737/787のキャッシュマージンは抑圧されている。
- バックログ前提では、時間とともに改善し、議論しているFCF水準を支える。
- Spiritは2026年にFCFで▲$1Bの逆風だが、長期的には
- 生産性、シナジー、品質・納入の改善で良化し、長期FCF目線を大きくは変えない。
- さらに価格(pricing)の押し上げも将来のマージンに寄与。
評価
- ⚠️ 具体的な“近未来のキャッシュマージン”は提示なし。改善は「時間と実行」に依存。
5) 2026年の737/787納入ガイダンス(Peter Arment)
Q(要旨):2026年のMAX/787納入と上期下期の流れは?
A(要旨:CFO Malave)
- 737:およそ500機
- 2025は在庫から約55機納入。2026は繰越在庫がほぼなく、生産ロールアウトが増える。
- ただし737-10を約30機ビルドするが、2026は納入しない(2027に認証後納入)。
- 787:およそ90〜100機(ロールアウト次第)
- BCA合計で**納入+約10%**を見込む。
6) KC-46の“曲がり角”と国防増産需要(Seth Seifman)
Q(要旨):KC-46がどう“turning the corner”するのか。PAC-3のマルチイヤーや投資は?
A(要旨:CEO Ortberg)
- KC-46損失は他のBDS案件を示唆するものではなく、当該プログラムの離散的要因。主因は767商用機側のコスト増。
- 2026年に19機納入するため、品質・エンジニアリング支援を高止まりさせる決断(今回の損失計上)。
- 空軍は次期タンカーをソース(単独)で進める決定。秋に価格提示の予定。
- 既存契約は「悪い契約だった」。次は**“公平で儲かる”ように引き受け基準(underwriting)を厳格化**。
- F-47は契約前からリスク投資して勝った。
- PAC-3は既に設備投資を進めており、マルチイヤー化の議論中。追加CapExは大きくない見立て。
- 防衛で今後大きいCapExはF-47投資の仕上げ。
7) そもそも「機体OEMは儲からない」問題(Ron Epstein)
Q(要旨):事実上のデュオポリーなのに機体製造は儲からない。新型機で変えられるか?
A(要旨:CEO Ortberg)
- 根本はリスクの理解と管理、および契約の入り方。
- **コンカレンシー、価格付け、受け入れる損害(damages)**など改善余地。
- 既存構造(OEとアフターマーケットの分配)はすぐ変えにくいが、次の新型機で価値の取り方・提携の設計を見直す余地がある。
8) 地政学(関税・欧州の地産地消調達)リスク(Robert Stallard)
Q(要旨):関税リスク再燃、欧州のローカル調達シフトをどう見る?
A(要旨:CEO Ortberg)
- 「心配というより注視」。状況は日々変わる。
- 米政権は商用航空の重要性を理解し支持的。過去も難しい局面があったが最終的に悪くない着地。
- 中国向けは一時停止後に解消し、今年も昨年並みの中国向け納入数を見込む。
- 欧州向け納入も多く、交渉の行方を注視。
9) “正常化までの差分”はBより上か下か(Noah Poponak)
Q(要旨):正常化へ向けた各要素の合計は$7Bより大きい/小さい? 2026年のBCAキャッシュは?
A(要旨:CFO Malave)
- 合計感は概ね$6B〜$7Bのレンジ。
- ただし余剰在庫の圧縮が緩衝材になる。
- DOJ支払いは2026の一過性で、減っていく類ではない。
- BCAキャッシュのより詳細は、必要になれば/可視化できれば追加で示す(この場では踏み込まず)。
10) CFOのBDSレビューは“EAC深掘り”なのか(Gavin Parsons)
Q(要旨):BDSの中身を見られるようになったが、どこまで掘っている?
A(要旨:CFO Malave)
- 「通常プロセスを迂回するEAC深掘り」ではない。
- 戦略・オペレーション・財務の3面でプログラムを俯瞰レビュー:能力の妥当性、顧客要求との整合、EV(出来高)指標、EACの前提/リスク/機会など。
- 何か出ればフォローするが、基本は通常のレビュー運用に接続していく。
総括
ポジティブ(✅)
- ✅ 商用機納入600機(2018年以来最多)と、受注1,173機/バックログ$567Bは「需要面の強さ」を疑いようがない。
- ✅ **737の生産安定化(月産42)**と、納期の定時性改善(前年比3倍改善)は、現場の改善が“数字として”出始めている。
- ✅ BGSが調整後でも成長+高マージン(売上+6%、マージン18.6%)で、グループの利益体質を下支えしている。
- ✅ 防衛は受注とバックログが強い($85B)。F-47の勝利は象徴的。
ネガティブ/リスク(❌⚠️)
- ❌ 利益の質が極端に悪い:4QのコアEPS $9.92が、売却益 $11.83を含む時点で“本業が稼いだ姿”ではない。通期も同様で、売却益がなければ説明が難しい。
- ⚠️ BCAがマージン▲5.6%。しかもSpirit買収影響で**▲1.5pt**という具体的な下押しが既に顕在化。
- 会社は「長期的に材料ではない」と言うが、統合の難易度は高く、47→52の難所でSpiritがボトルネック化するリスクを自ら認めているに等しい。
- ⚠️ KC-46で▲$565Mの追加損失。経営は「将来納入のための投資的な支援」と説明するが、これは裏返せば
- 「納入を守るために損失を追加で飲む」状態が続いている、ということ。
- さらに“次期タンカーを秋に再価格”と言うが、過去10年の失敗契約の再発防止が口約束でしかない。
- ⚠️ 777Xは“2027納入維持”と言い切った直後に、エンジン耐久性問題が出ている。
- 「影響しない」と言うのは希望的観測に見える。根因・是正が確定していない段階で納入影響ゼロを断言するのは危うい。
- しかもキャッシュ面では、PDPの構造上 2026のネットバーン増、プラス転換は2029。時間がかかり過ぎる。
- ⚠️ FCFガイダンスが+$1B〜+$3Bと低いうえ、上期はキャッシュ使用、下期で挽回という“いつもの形”。
- 会社は「調整後ならhigh single digits」と言うが、調整項目の多くは過去の失策のツケであり、投資家から見れば“除外してよい性質”ではない。
- ⚠️ 顧客補償(considerations)が長引くことをCFOが明確に示唆。これは「納期遅延の傷」がまだ深いことの証拠で、将来キャッシュを長く蝕む。
株価
- ✅ 上振れ材料:
- 737が42→47へスムーズ、787が8→10へ進み、納入とFCFが下期に見えて改善するなら、回復期待で評価は上がりやすい。
- 防衛バックログとF-47は中期の安心材料。
- ❌ 下振れ材料:
- 777X(耐久性問題→認証/納入遅延)、KC-46の追加損失、47→52での供給網(Spirit含む)詰まりのいずれかが顕在化すると、FCFストーリーが即崩れる。
- とくに本決算は売却益の“見かけEPS”が大きく、次の局面で本業の稼ぐ力が露骨に問われる。

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