2025年より第2期トランプ政権が関税引き上げに踏み切ることが決定しました。そこで、第1期(2016年~2020年)にトランプ政権が行った関税措置の結果についてまとめます。
1. トランプ政権の主要な関税措置
(1) 中国に対する関税(米中貿易戦争)
- 発動時期: 2018年~2019年
- 対象: ほぼすべての中国製品(約3,700億ドル相当)
- 関税率: 10~25%(段階的に引き上げ)
- 理由: 知的財産権の侵害、不公正貿易慣行、米中貿易赤字の是正
- 影響:
- 米国企業・消費者: 原材料・部品コストの上昇、消費者物価の上昇
- 中国: 経済成長の鈍化、一部の製造業の国外移転(東南アジア・メキシコへ)
- 世界経済: サプライチェーンの混乱、グローバル投資の低迷
(2) 鉄鋼・アルミ関税(232条関税)
- 発動時期: 2018年3月
- 対象: すべての国からの鉄鋼(25%)・アルミ(10%)
- 理由: 国家安全保障上のリスク(安価な輸入品が国内産業を圧迫)
- 影響:
- 米国製造業: 鉄鋼を使用する自動車・建設業界のコスト増加
- カナダ・EU・日本: 報復関税を発動(詳細は後述)
- 米国鉄鋼産業: 一時的に生産増加、しかし雇用増加は限定的
(3) 自動車・部品への関税(未発動)
- 発動検討: 2019年(EU・日本との交渉材料として使用)
- 対象: 輸入自動車とその部品(最大25%)
- 結果: 交渉の結果、関税は発動せず(USMCA締結、日米貿易協定)
2. 各国の報復関税
(1) 中国の報復
- 対象: 米国製品(大豆、農産物、自動車、航空機など)
- 関税率: 5~25%
- 影響:
- 米国農業: 大豆の対中輸出が激減 → トランプ政権は農家に補助金(280億ドル)
- 中国国内: 米国製品の代替(ブラジル産大豆など)
- 米中貿易合意(2020年1月): 中国が米国製品の購入を約束するが、履行率は低かった
(2) EU・カナダ・メキシコの報復
- 対象: ウイスキー、バーボン、バイク(ハーレーダビッドソン)、農産物、鋼鉄など
- 関税率: 10~25%
- 影響:
- 米国製造業: ハーレーダビッドソンがEU市場向け生産を海外へ移転
- 農業: EU市場での米国農産物の競争力低下
3. 総合的な結果
(1) 米国の視点
- 貿易赤字: 中国との貿易赤字は一時的に減少したが、全体の赤字は増加(他国からの輸入増)
- 製造業の回帰: 一部企業は国内回帰したが、多くは東南アジアやメキシコへ移転
- 消費者コスト: 家電・電子機器・自動車などの価格上昇
- 農業: 補助金で一時的に支援されたが、市場喪失の影響が長期化
(2) 世界経済
- サプライチェーンの分断: 企業が中国からベトナム・インドなどに生産拠点をシフト
- 関税競争の激化: 他国も保護主義政策を強化
- 経済成長の鈍化: 世界銀行・IMFは貿易戦争が成長率を0.3~0.5%押し下げたと推計
4. 株式市場への短期的影響(2018年~2019年)
関税発表や報復関税のニュースが出るたびに、市場は大きく反応しました。
- 2018年3月~6月(鉄鋼・アルミ関税発動時)
- S&P 500: -6.7%(2018年2月~3月)
- ダウ平均: -10%(2018年1月高値から3月安値まで)
- 特に輸出企業(ボーイング、キャタピラー)や自動車業界(フォード、GM)の株が下落
- 2018年10月~12月(米中貿易戦争激化)
- S&P 500: -19.8%(史上最悪の12月)
- NASDAQ: -23%(テクノロジー株が大打撃)
- FRBの利上げ懸念と相まって、リセッションの恐れが広がった
- 2019年5月(関税引き上げ)
- トランプ政権が対中関税を10%→25%に引き上げると発表
- ダウ平均: -5%(1週間で下落)
- 半導体関連株(NVIDIA、Intelなど)が特に下落(中国依存度が高いため)
- 2019年1月~6月(米中貿易交渉が進展し、市場は回復)
- S&P 500: +17.5%(2019年上半期)
- ダウ平均: +14%
- 特にハイテク株(Apple、Microsoft)が急回復
- 2020年1月(「第一段階の米中合意」締結で市場は安定)
- S&P 500、ダウ平均ともに過去最高値を更新
まとめ:
✅ ネガティブ要因: 関税発動時には株価が大きく下落し、市場は混乱
✅ ポジティブ要因: 市場は交渉進展やFRBの緩和で回復
コメント