コラム:カカオ先物価格の高騰について

コラム

2024年3月26日の取引でカカオ(ココア)先物価格が史上最高値を更新し、直近1年で約3倍という大暴騰となっています。ここではその背景と他の商品先物との類似点について触れたいと思います。

根本原因

カカオ価格の問題は当初、不作による供給不足というシンプルな要因に根ざしていました。特にカカオ豆供給の約75%を占める西アフリカで、異常気象による不作が起きたことが根本原因です。この結果、カカオ価格は1年前から約3倍に急騰し、1977年の最高値も更新しました。

金融市場の影響

商品供給不足の影響が価格に転嫁されるのは理にかなっていますが、今年に入ってからの急激な価格上昇は現物需給の影響よりも金融的な要因が大きく関わっています。

第一の問題: ヘッジとマージンコール

カカオ先物市場における第一の問題は、強気市場の状況下でのヘッジ戦略と証拠金管理にあります。カカオの現物市場で長期ポジションを持つトレーダーは、金融市場での短期ポジションを通じてそのリスクをオフセットします。しかし、カカオ価格が上昇し続ける現在の市場では、短期ポジション損失に対するマージンコールに応じるための現金が必要になります。企業がこれらのマージンコール(追証)を満たすための資金を確保できない場合、ヘッジを解除して現金不足を回避するか、最悪の場合はデフォルトに直面する可能性があります。

第二の問題: オーバーヘッジ

第二の問題はオーバーヘッジ、つまり現物の長期ポジションと先物の短期ポジションのミスマッチです。不作によりカカオ豆や加工製品の納品が減少した結果、トレーダーが実際の製品よりも多くの先物をヘッジしています。これにより、トレーダーは高いレベルでヘッジを買い戻さざるを得なくなります。このオーバーヘッジは、市場の不安定性をさらに悪化させ、さらなる価格上昇の原因となります。

実際の先物市場

マージンコールとオーバーヘッジの大きさは、ニューヨークとロンドンのカカオ先物市場の建玉が過去3ヶ月で35%減と大幅に減少していることから分かります。これは、トレーダーがヘッジポジションを買い戻しているためです。結局、カカオ価格が上昇すればするほど、マージンコールの規模とオーバーヘッジの規模が大きくなります。そして、一部のトレーダーがポジションを買い戻すことで価格をさらに押し上げ、他のトレーダーに同じ問題を引き起こします。

類似事例

2022年3月に起きたニッケル価格の一時的な高騰は、今回のカカオ高騰の事例と似ているかもしれません。

根本原因

ロシアは世界のニッケル供給の約10%を占めており、ロシアとウクライナ間の紛争は、ロシアからのニッケル供給に対する不確実性を高め、ニッケル価格の急騰の一因となりました。紛争により生じた不安定性は、市場参加者の間で将来の供給不足への懸念を引き起こし、価格の大幅な上昇につながりました。

金融市場の影響

2022年3月、ロンドン金属取引所(LME)におけるニッケル価格の急騰は、市場の混乱を引き起こしました。特に、大量のショートポジションを持っていた市場参加者が、価格の上昇によって巨額のマージンコールに直面し、ポジションの買い戻しを迫られました。この買い戻し操作は、さらに価格を押し上げることになり、ニッケル市場の不安定性を一層増加させました。この状況を受けて、LMEは異例の措置としてニッケル取引を一時停止し、市場の安定化を図りました。その後ニッケル市場は落ち着きを取り戻し、先物価格は急騰分をすべて巻き戻される形となりました。

まとめ

カカオ価格の歴史的な暴騰は、西アフリカの異常気象による供給不足と金融市場の動向が複雑に絡み合った結果です。先物市場におけるマージンコールとオーバーヘッジの問題が価格のさらなる上昇を促している状況は、2022年のニッケル市場の混乱と似ています。商品市場においてはこのようなヘッジ要因の急騰急落事例が多数あり、カカオも生活必需品ではないことを鑑みると、需給要因を差し引いた高騰は短命に終わる可能性があります

参考記事

Chocoholics Aren’t the Only Victims of Cocoa’s Surge – Bloomberg

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