パウエルFRB議長は3月7日、シカゴ大学のブーススクールオブビジネスにて講演を行いました。以下はその要約です。
要約
1. 経済の現状と見通し
- 経済状況
- 米国経済は依然として好調であり、全体的な不確実性が高い中でも、経済基盤は堅実と評価されています。
- 第四四半期のGDPは年率2.3%の成長を記録し、消費支出も堅調に推移。ただし、2024年後半の急激な成長からはやや緩やかな動きに転じる可能性が示唆されています。
- 労働市場
- 労働市場は全般的にバランスが取れており、直近の雇用統計では、2月に15.1万件の雇用増加があったものの、失業率は僅かに上昇して4.1%に達しました。
- また、Jobs-to-Worker GapやQuits Rateなどの指標から、労働市場が大きなインフレ圧力源とはなっていないと判断されています。
- インフレーションについて
- インフレ率は、2022年中盤に7%以上に達したピークから大幅に低下し、連邦準備制度の長期目標である2%に近づいています。
- ただし、住宅サービスや非住宅サービスの一部市場など、依然として高止まりしている分野もあり、コアPCEインフレ率は2.6%、総PCEインフレ率は2.5%程度と報告されています。
- 短期的なインフレ期待の上昇も見受けられますが、長期的な期待は安定しており、2%目標との整合性は保たれているとのことです。
2. 金融政策の基本方針
- 政策目標
- 連邦準備制度は、議会から与えられた「最大雇用」と「物価の安定」という二重の目標に注力しています。
- 経済が堅調である限り、物価が持続的に2%に向かう方向に進まない場合は、政策の引き締めを続ける姿勢を示しています。
- 柔軟性のある対応
- 経済状況の変化に応じ、もし労働市場が予期せず弱まったり、インフレが予想以上に急落したりすれば、政策の緩和も検討される可能性があると強調されました。
- 政策は固定的なルールに縛られるのではなく、現実の経済動向を反映して柔軟に調整される方針です。
- 金融政策枠組みの再評価
- 議長は、前回のFOMC会合から始まった「5年ごとの再評価プロセス」について言及し、コンセンサスステートメントやその後のコミュニケーションの改善が検討されることを説明しました。
- 特に2020年の枠組み変更(効果的下限問題への対応など)の経験を踏まえ、今後の政策表明やコミュニケーション手法をどのように修正するかが重要な焦点となります。
3. 質疑応答
- 政策枠組みの将来
- コンセンサスステートメントの変更点および、会議後のコミュニケーション(SCP含む)について、今後の見直しが進められる予定であり、夏までにそのプロセスを完了する見通しです。
- 物価水準とインフレ率の違い
- 議長は、経済主体が実感する「高い物価水準」と、インフレ率(=価格変動率)との違いについて触れ、政策上は後者に重点を置くべきであるとの見解を示しました。
- 一時的な価格上昇は見過ごすべきであり、継続的なインフレ期待の変化が政策判断の鍵となると述べています。
- 関税の影響
- 関税による一時的な価格上昇について、従来の見解では消費者物価への影響は一過性であるとされるものの、複数回にわたる関税措置や大幅な価格上昇の場合は、長期的なインフレ期待に影響を及ぼす可能性があるとしています。
- 統計データと民間データの活用
- 政府が提供するBEAやBLSの統計データは依然として「ゴールドスタンダード」として重要視されている一方で、民間のリアルタイムデータ(例:クレジットカードデータ)の活用も進められ、経済動向の把握に役立てられています。
- 国際金融基準(Basel III Endgame)
- 国際的な銀行規制の最終段階、すなわちBasel III Endgameの完遂に向けた取り組みについて、米国の銀行監督機関の新たな指導者の下で再開する意向が示されました。
- 米国経済の成長要因
- 米国の急速な経済回復の背景として、以下の要因が挙げられました:
- 構造的要因:柔軟な労働市場、発達した資本市場、技術革新、法の支配など
- 人口増加:2022年・2023年における大きな人口増加
- 生産性向上:特に短期的な生産性の大幅向上が潜在生産力を押し上げている
- ただし、生産性の向上が今後も持続するかについては不確実な部分があるとしています。
- 米国の急速な経済回復の背景として、以下の要因が挙げられました:
- お気に入りの中央銀行家
- 議長は、個人的な見解として、かつて高インフレ時の対策で「ゴールドスタンダード」を打ち立てたポール・ボルカー氏を挙げ、中央銀行の独立性の重要性を強調しました。
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