パウエルFRB議長は5月14日、アムステルダムで開催されたオランダ外国銀行協会のイベントで講演し、質疑応答で多くのトピックについて話しました。以下はその要約です。
要約
米国経済の現状
- 昨年の経済成長率は3%超と力強く、雇用の伸び、賃金上昇、消費の堅調さなどが成長を牽引
- 移民の流入も経済成長に寄与
- 労働市場は非常にタイトで、失業率は27カ月連続で4%を下回る
- 徐々に労働市場の需給はよりバランスのとれた状態に向かっている
インフレ動向
- ヘッドラインインフレ率は7.1%のピークから2.7%に、コアインフレ率は5.6%から2.8%に低下
- インフレ抑制の進展は主に昨年後半に見られ、1-3月期のインフレ率は予想より高かった
- 生産者物価指数(PPI)は最新の数値で上昇したが、内訳は混在しており、一概に「高い」とは言えない
セクター別のインフレ見通し
- 財のインフレ率は、長年のグローバリゼーションの影響でマイナスだったが、パンデミックによる供給制約で上昇。今後はある程度落ち着くと予想
- 住宅インフレは賃貸料の伸びが鈍化しているのに実勢価格に反映されておらず、ラグが予想以上に長い。ラグを考慮に入れる必要がある
- サービス(住宅除く)のインフレ率は賃金に連動しており、低下に最も時間がかかる可能性。ただし2%まで低下する必要はない
今後の見通し
- 2%以上の経済成長が続くと予想
- 労働市場は引き続き力強さを維持しつつ、さらに需給のバランスが改善すると予想
- インフレ率は月次ベースで昨年の低水準に戻ると予想するが、その自信度は低下
金融政策の方向性
- 物価安定のために忍耐強く金融引き締めを続ける必要がある
- 政策金利は当面現行水準を維持することになると考えている
欧米の経済のダイバージェンスの要因
- 欧州は労働者を一時解雇し、景気回復時に再雇用する形を取ったため、生産性を高める労働力の再配分が進んだ
- 欧州はウクライナ侵攻の影響を大きく受けている
- 短期的にはこれらの要因で欧州経済は米国ほど力強さがないと考えられる
長期的な経済のファンダメンタルズの違い
- 長期的に見れば、欧州の生産性上昇率は米国の半分程度
- 米国の柔軟な労働市場と発達した資本市場が、イノベーティブな企業の資金調達を可能にし、生産性を高めていると考えられる
パンデミック初期の金融政策対応
- 2020年3月は非常に不確実な状況下での判断だった
- 市場支援のための積極的な政策を打ち出したことで、市場機能は回復
- 実際の融資額は少額だったが、アナウンスメント効果は大きかった
- 初期対応については後悔はない
パンデミック対応の金融政策の評価
- インフレへの対応については、現時点で評価を下すのは時期尚早
- 2〜3年後に振り返れば、また違った見方ができるだろう
FRBの独立性
- 議会では与野党を問わずFRBの独立性が強く支持されていると確信している
- FRBは与えられた責務を非政治的・無党派に全力で果たすことに専念している
- 広く理解と支持を得られていると考えている
財政の持続可能性
- 米国の財政赤字は持続不可能な経路を辿っている
- 財政赤字対策は早期に行うことが望ましい
- 議会でもこの問題は認識されている
金融システムの安定性
- 米国の大手銀行は健全で競争力がある
- 銀行と非銀行金融機関の結びつきは拡大しており、注視が必要
- 非銀行金融セクターの急成長は金融安定のリスクになる可能性があるため、慎重にモニタリングしている
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